研究テーマ

立花研では基本的にそれぞれの学生が独立したテーマで研究を進めています。

クラゲ*

  • エダアシクラゲの放卵放精の光制御
    林B4、基生研光解析室と共同研究
  • エダアシクラゲの実験動物としての確立
    ゲノムプロジェクト立花、学生全員、東工大生命情報伊藤研と共同研究
    近交系作成立花、多くの学生
    形質転換系の開発西住M1、東大三崎臨海実験所と共同研究
  • エダアシクラゲの性決定機構、ヒドロ虫の生殖巣の形成機構の解明
    三國M1、国立科学博物館並河研と共同研究
  • エダアシクラゲの摂食行動異常株の解析
    石崎B4
  • エダアシクラゲの減数分裂における脂質の動態の解析
    山元B4、京大工学部梅郷・原研、日大生物資源科学部森・井上研との共同研究
(*ほとんどすべてのプロジェクトは宮城教育大学出口研との共同研究)

ミジンコ

  • ミジンコの遊泳行動のサーカディアンリズムによる制御
    界B4、阪大工学部渡邉研、沖縄高専メディア情報工学科正木研との共同研究

なぜ、クラゲ?

クラゲは多細胞動物のなかで神経系や自己と他者の認識機構、体内消化系などを最も進化的に早い段階で獲得した動物です。したがって、これらの重要なものが進化の過程で発生したことを研究するため、いいかえると神経細胞とは何か、自他の認識とは何か、食物を消化するとはどういうことか、というようなわれわれヒトに至るまでの動物に共通する重要なしくみをより単純な系で、より根本的に調べるために非常に優れた実験動物になりうると考えられます。

しかし、現在、クラゲを研究している人はそう多くはありません。なぜでしょう?それはクラゲにはショウジョウバエやマウスのように、すでに確立した実験動物にない欠点があるからです。それは、クラゲを研究室で育てることが難しいということです。育てることが難しいので、古典遺伝的な掛け合わせや分子生物学に必須のトランスジェニックアニマル作成、遺伝子編集などの実験方法が適用できませんでした。

 ところが、宮城教育大学の出口竜作らが、エダアシクラゲという小さなクラゲの生活環を研究室ですべてまわすことに成功しました。これによって、掛け合わせによって次世代を作成し、遺伝学的な実験をすることが可能となり、クラゲの実験動物としての期待が一気に高まったと言えます(おもに出口研と立花研だけで局所的に高まっているという気もしますが・・・)。これを受けて、立花研では兄弟姉妹を掛け合わせること(sib mating)を繰り返し、遺伝的に均一な系統(近交系)の作成を行っており、sib matingを4世代繰り返して作った系統のゲノムプロジェクトを開始しております。さらに、トランスジェニックジェリーフィッシュを作成するために形質転換法の確立を急いでおり、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、パーティクルガンなどの方法を検討しております。

 エダアシクラゲを実験動物として確立したら、調べてみたい面白いことはたくさんあるのですが、そのいくつかをあげると、①卵母細胞がどのようにしてできて、どのようにして産卵されるのかを、一番元の幹細胞(刺胞動物では間細胞といいます)から生殖幹細胞が形成され、さらにそこから卵母細胞(oocyte)となり、卵母細胞が成長し、成熟して受精可能な卵(egg)となり、最終的には産卵(海に放出される)のか、についてすべての過程を知りたいと思っています。②産卵には光の刺激が関与しており、光を受けてどのようにして産卵に至るのか、これを明らかにすることは同じ刺胞動物のサンゴの一斉産卵の謎を解く大きな助けとなると期待されます。③また、繁殖シーズンにはエダアシクラゲは毎日毎日新しい卵を幹細胞から作っていると考えられますので、その細胞分裂の調節にはサーカディアンリズムが関与していると予測され、生殖に関わるサーカディアンリズムの研究にも展開が望めるものと考えています。さらに、④エダアシクラゲは性決定の機構が不明ですが、性転換をする可能性もあり、その解析も進めています。そのほか、⑤神経系も散在神経系という独自の興味深い体制をとっていることや、⑥自他の認識機構についてもたくさん興味深いことがあり、さらにベニクラゲで有名ですが、⑦クラゲの寿命の研究も非常に期待できる分野で、そこにもエダアシクラゲの貢献できる可能性が大きいと思います。そのほかにも⑧行動突然変異体の解析(現在は摂食行動に異常のある変異体の解析)などを行っています。

 ということで、エダアシクラゲは、まだまだこれからの実験動物ですが、楽しいことがたくさん待っている宝の山のような存在です(だと思います)。実際に宝の山になるかどうかは、今、エダアシクラゲを研究しているわれわれの努力にかかっているといってもよいでしょう。